事業承継対策のポイント
事業承継が進まない本質を探る
1.事業承継が進まない本当の理由
相続税法の法改正等をはじめとして、国家を挙げて中小企業の事業承継対策がとられてきました。
しかし、これが思うように進んでいないのが現状です。
事業承継が進まない理由としては、一般的には次の理由が考えられます。
後継者が事業を継ぎたいと考えるような魅力的な会社ではない
事業を継がせたいと思えるような人材がいない
たしかに、社長が上記のように考えるのも理由の一つでしょう。
しかし、これだけではなく、社長自身に多くの問題点を抱えているケースが多くみられるのもまた事実です。
その問題とは、具体的には次のようなものが挙げられます。
”社長自身が持つ”事業承継の円滑化を阻害する要因
(1)子供に「好きなことをやれ」と言ってしまっている
「子供には好きなことをやれ」とは、教育論としてよく耳にする言葉です。しかし、このように口では言っていても心のどこかでは「事業を継いで欲しい」と考えているのも、親心なのかもしれません。
しかし、最後の最後になって「やはり継いでくれ」といわれても、後継者からすれば、気持ちの整理もつけられません。
継いで欲しいならば、以前からその意思を伝えておくべきです。
そうしなければ後継者である子供も、「心の準備」ができておらず、結局は事業承継が先送りになってしまいます。
(2)「子供が継ぎたくなくなる」マイナスの情報ばかり伝えている
事業承継が円滑に進まない理由として、「子供が継ぎたがらない」と言う社長も多いものです。
しかし、このような社長に限って、子供たちに「社長業の辛さ」ばかりをぼやいているものです。
社長業のやりがいを子供には伝えようとせず、その辛さばかりを伝え聞いていれば、事業承継に対して抵抗感が生まれてくるのも当然のことといえるでしょう。
「社長の楽しさ」「社長の夢」を伝えず、マイナスの情報ばかり伝えていても、事業承継はスムーズに行われません。
(3)頭が固くアドバイスを素直に聞き入れられない
社長業一本で人生を生きてきた方は、社長業が人生で面白く感じられるものであり、やりがいもあるのです。
したがって、その他の娯楽には目もくれず、社長自身が倒れるまで社長業を続けてしまいます。
このような社長は当然ながら、後継者のことは考えていないケースが多くみられます。
後継者のことについて他者に触れられると、ただでさえそれについては頭にないので、余計に拒否反応を起こしてしまうのです。
結果、事業承継が経営者交代の直前にあわただしく、そして突然に行われることとなってしまい、このような事業承継は上手くいくはずはありません。
(4)「仕事が命」であり生きがいとなってしまっている
会社の進路を自ら決め、主人公としてビジネスの世界を闊歩することのできる社長業。苦労も人一倍ですが、成功した際の喜びはこの苦労を大きく上回るものでしょう。その達成感と充実感は一旦これを味わってしまうと病みつきになってしまうものです。
このような「社長業に対する大きなやりがいから、それを放棄する気になれない」という理由は、事業承継の進まない大きな原因の一つになっているのです。
しかし、本当に会社の繁栄を願うなら、社長という権力の座にいつまでも固執することなく、若い世代にこれを託すという決断も必要です。
(5)引き継いだ後、会社が上手くいくか心配で未だに引退できない
社長業とは、いつの時代においても至極大変なものであり、その大変さが薄らぐのを待ってから事業承継を行うのでは、いつまでたっても事業承継のタイミングを決断することはできないでしょう。
後継者や後に残る社員を信頼し次代に夢を託す決断力も、事業承継を上手くいかせるための重要なポイントになります。
事業承継を成功に導く
思考のポイント
1.事業承継が進まない本当の理由
事業承継を成功させている社長には、下記内容を代表例とする共通点が多くあります。
(1)「社長の帝王学」を後継者にきちんと伝えている
後継者が一番社長から聞いておきたいことは、社長の経営ノウハウや事業を行う上での価値観です。
これをしっかりと後継者に伝えている企業では、事業承継が成功しているケースが極めて多いといえます。
(2)その交代の事実を、広く周囲に認識させている
中小企業の事業承継で多く見られるのは、外部に対して挨拶状等でその周知徹底を図るのですが、肝心の自社の社員にとってはそこまでの情報徹底が行われていないケースが多いようです。しかし、これでは社員はどちらの言うことを仰いで仕事を行って良いかわからない状況になってしまいます。
自社社員にとっては「いつのまにか社長交代がおこなわれている」と捉えられてしまう、というケースが多く発生します。
(3)謙虚な心を忘れず常に真摯な態度で他者のアドバイスを聞く
事業承継とは、苦労して自身が築き上げた会社を後継者に渡すことであり、そこには「本当は渡したくない」という感情論的問題が起こってしまうことが往々にしてあるものです。
このような場合、外部の人間は的確なアドバイスをするべきであり、社長はその意見に対して真摯に耳を傾けるべきでしょう。
他者からの冷静な意見を積極的に取り入れ、実行した社長が、結局は事業承継を成功させているのです。
(4)褒めて伸ばすことで後継者に自信とやる気を植え付けられる
事業承継に成功している多くの社長は、後継者をよく褒めています。褒められれば後継者もやる気を出しますし、その結果、事業承継後の企業経営も、新社長の士気によってうまくいきます。
(5)後継者が事業を継いだ後、求められれば相談に乗るが、自分からは決して出ていかない
社長は往々にして多く口を出してしまいがちになるものです。しかしこれでは、新社長がやりづらいこと極まりないでしょう。「任せるならば徹底的に任せる」ことが重要であるといえます。
アドバイスに関しては、あくまで後継者が教えを請うてきた場合にのみ行うようにし、そのような時には思う存分に的確なアドバイスをしてあげると良いでしょう。
2.事業承継は後継者の立場で考えるとスムーズにいく
社長は事業承継を行うにあたり、「後継者の立場」で考えるということが、非常に重要かつ、成功へのカギを握っているといえるでしょう。
(1)後継者が抱えている悩みを理解する
後継者の立場になるには、「後継者の抱く悩み」を理解することで、有効な手段を講じることができます。
後継者の多くが抱える悩みには、次のようなものがあります。
(2)後継者が抱える悩みの特徴
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社長業に対する自信が持てない
これは後継者特有の悩みであり、実際に業務を積み重ねて実績を重ね、自信が持てるようになるまでは当然の心理状態であるといえます。したがって、社長は後継者の抱く不安感をただ情けなく感じるのではなく、ここで後継者の話をじっくりと聴き、相談に乗ることが良いでしょう。 -
社内にいる親族の扱いに困っている
中小企業ではその親族も一緒に働いているケースが多くあります。先代社長が経営を引っ張っているときは良いのですが、後継者が社長になる折、彼らと経営権を争うというケースも実際によくあることです。「先代社長が引退する際に、親族にも辞めてもらう」という選択も、後継者に禍根を残さない、という意味において、選択肢の一つとして社長は頭の中に置いておくべきでしょう。 -
古株の社員と円滑な関係を築けない
創業社長は自分で人を選び、そしてその側に置いておくことができます。しかし、後継者は先代社長が築いた人間関係の中に自分の身を置かなくてはなりません。特に、ベテラン社員や年上の社員との人間関係に悩むことは、多くの後継者に共通するケースとして挙げることができます。ここで役に立つのはコミュニケーションスキルで、後継者にこの術をきちんと身につけさせておかなければなりません。
3.社長は「事業承継の主役は自己である」という認識を持つ
事業承継において、「主役は自分である」という意識があれば、自分から「よりよい事業承継が行おう」と行動を起こすことになるでしょう。
すると後継者教育にも力が入り、またその熱意が周りにも伝わり、事業承継対策における全てが良い方向に向かっていくのです。
4.「後継者を不幸にしない」という意志を持つ
社長は事業承継を成功させるために「後継者を不幸にしない」という意志が求められます。「後継者の不幸」とは、多額の借金等を先代社長から押し付けられてしまう、ということです。
後継者としてみればこれはまさに「災難」でしょう。社長が後継者に対して資産を残し、そのビジネスが末永く続くようにするためには、「社長の自分は今、何をすべきか」ということをじっくり思考することです。
この思考は現状の業務の改善にもつながる「事業承継を成功させる根本の発想」であるといえるでしょう。
5.「後継者が力を発揮できる」舞台をつくる
後継者が事業を受け継ぎ、その持てる力を存分に発揮することができるかは、承継される環境によるところも大きいでしょう。そして、その環境をつくるのは「現在の社長」です。
そのためには、後継者の立場に立ち、事業を受け継ぐことによる苦労や困難を予測し、それらを未然に防ぎ、乗り越えられるように思案して承継していくことが大切なのです。