不動産を活用した節税対策①
収用による課税の有利な選択
土地収用とは、公共の利益となる事業の用に供するため、土地の所有権その他の権利を、一連の手続きを経てその権利者の意思にかかわらず、国又は地方公共団体等に強制的に取得させる行為をいいます。収用に伴い、損失の補償が行われます。
1.対価補償金で他の土地建物に買い換えたとき
これを収用等に伴い代替資産を取得した場合の課税の特例といいます。
この特例を受けると、売却した金額より買い換えた金額の方が多いときは所得税の課税の将来に繰り延べられ、売却した年については譲渡所得がなかったものとされます。
売却した金額より買い換えた金額の方が少ないときは、その差額を収入金額として譲渡所得の金額の計算を行います。
この特例を受けるには、次の3要件すべてに当てはまることが必要です。
- 売却した土地建物等が固定資産であること。
※但し不動産業者などが販売目的で所有している土地建物は、固定資産には該当せず棚卸資産に該当しますので、この特例の対象外です。 - 原則として、売却した資産と同じ種類の資産を買い換えること。同じ種類とは、例えば土地と土地、建物と建物のことです。このほか、一組の資産として買い換える方法や事業用の資産を買い換える方法などがあります。
- 原則として、土地建物の収用等のあった日から2年以内に代わりの資産を取得すること。
2.譲渡所得から最高5,000万円までの特別控除を差し引く特例
この特例を受けるには、次の4要件のすべてに当てはまることが必要です。
- 売却した土地建物等が固定資産であること。
- その年に公共事業のために売却した資産の全部について収用等に伴い代替資産を取得した場合の課税の課税の特例を受けていないこと。
- 買取等の申し出があった日から6か月以内に土地建物を売却していること。
- 公共事業の施行者から最初に買取等の申し出を受けた者が譲渡していること(買取り等の申し出を受けた者の死亡によりその者から資産を取得した者が譲渡した場合を除きます。)
ワンポイントチェック
(1)同一の収用事業による土地の買取りが2年以上に渡って行われたとき
最初に譲渡があった年については、収用等の場合の特別控除の特例又は代替資産の特例のいずれかを選択することにより、特例の適用を受けることができます。
翌年以降については、代替資産を取得した場合の特例については適用を受けることはできますが、特別控除の特例の適用をうけることはできません。これは最初の譲渡があった年に特別控除の特例の適用を受けている・受けていないに関わらず適用を受けることができません。なお、下記の場合には別個の事業として取り扱われ、『最初に譲渡があった年』と同じく代替資産の特例と特別控除の特例のいずれかを選択して適用を受けることができます。
- 同一の収益事業でない場合
- 事業計画の変更により買取が2年以上に渡る場合
(2)代替資産を取得しなかった場合の特別控除の適用の有無
収用等により土地等が買収された場合に、税務署長の承認を受けて代替資産を取得する見込みで課税の繰延べの特例の適用を受けていたが、都合により収用等のあった日以後2年以内に代替資産を取得しなかった場合には、その期間を経過した日の4ヶ月以内に、収用等のあった年分の所得税について修正申告書の提出が必要となるが、この申告書の提出に際し、特別控除の特例の適用を受けるための要件を満たしている場合には5,000万円特別控除の特例の適用を受けることができます。
事業用資産の買換え特例の活用
1.事業用資産の買換え特例とは
個人が、事業の用に供している特定の地域内にある土地建物等を譲渡し、一定期間内に特定地域内にある土地建物等の特定の資産を取得し、その取得の日から1年以内に買換資産を事業の用に供した場合には、買換えの特例の適用を受けることができます。
この特例を受けますと、売った金額より買い換えた金額の方が多いときは、売った金額に課税割合をかけた額を収入金額として譲渡所得の計算を行います。売った金額より買換えた金額の方が少ないときは、その差額と買い換えた金額に課税割合をかけた額との合計額を収入金額として譲渡所得の計算を行います。
これらの場合の課税割合は20%です。
譲渡所得の計算
- 譲渡収入≦買換資産の取得価額のケース
譲渡収入×20%-(譲渡資産の取得費+譲渡費用)×20%=譲渡所得金額 - 譲渡収入>買換資産の取得価額のケース
A-(譲渡資産の取得費+譲渡費用)×A/譲渡収入=譲渡所得金額
A=譲渡収入-買換え資産の取得価額×80%
2.事業用資産の買換特例の適用要件
この特例を受けるための適用要件は次の通りです。
- 買換えのための譲渡資産と買換資産は、ともに事業用のものに限られます。
-
譲渡資産と買換資産とが、一定の組合せに当てはまることです。
この組合せの代表的なものとして次のものがあります。
a.東京都の23区、大阪市などの既成市街地等内にある事務所や事業所として使用されている建物または敷地用の土地で、所有期間が10年を超えるものを譲渡して、既成市街地等でない地域にある事業用の土地や建物を取得する場合
b.譲渡の日の属する年の1月1日現在の所有期間が10年を超える事業用の土地や建物を譲渡して、国内にある土地等、建物または機械装置を取得する場合
- 買換資産が土地の場合、取得する土地の面積が、原則として譲渡した土地の面積の5倍以内であることです。
なお、一定の農地への買換えの場合は10倍または30倍以内とされることがあります。 - 資産を譲渡した年か、その前年中、あるいは譲渡した年の翌年中に買換資産を取得することです。
- 事業用資産を取得した日から1年以内に事業に使うことです。
なお、取得してから1年以内に事業に使用しなくなった場合は、特例は受けられません。
3.具体例
既成市街地等内にある事業用の土地・建物を3億円で譲渡し、既成市街地等外にある事業用の土地・建物を2億8,000万円で取得しました(うち土地1億円、建物1億8,000万円)。
なお、買換えた土地の面積は譲渡した土地の面積の5倍以内です。
また、譲渡資産の取得費用および譲渡費用は1,000万円です。
譲渡資産は長期所有です。
課税長期譲渡所得の計算
A=3億円-2億8,000万円×80%=7,600万円
課税長期譲渡所得=A-1000万円×A/3億円=7346万円
4.留意事項
特定の事業用資産の買換え特例が適用されない譲渡には下記のようなものがあるため注意が必要となります。
- 収用交換等による譲渡
- 贈与(低額譲渡とみなされる場合も含む)
- 交換(他の交換の特例の適用は可能
- 出資
- 代物弁済としての譲渡(金銭債務の弁済に代えてするものに限る)
- 棚卸資産又は雑所得の基因となる土地等の譲渡
また、次のような資産は事業用資産に該当しません。
- 事業用資産の買換えの特例を受けるためだけの目的で、一時的に事業の用途に使ったと認められる資産
- たまたま、運動場、物品置場、駐車場などとして利用していた空地またはこれらの用途のために一時的に貸し付けていた土地
事業用資産の借入金による買換え
1.事業用資産の借入金による買換え
ワンポイントチェック
平成4年度から、土地を取得するために要した借入金の利子に相当する金額は、不動産所得が赤字になる部分については、損益通算の対象とはならなくなりました。
土地建物を一括購入した場合には、先ず借入金が建物の購入に充て、次に土地に充てたと計算することが出来ます。
不動産事業が赤字の場合、借入金利息のうち不動産部分は、損益通算の対象にはなりません。
2.事業用資産の買換え特例
軽減の仕組み
ポイント
買換えた金額(売却金額の上限)の80%が、税金の計算上、売却しなかったものとみなされます。
注意点
- 買換資産の取得費は売却資産の取得費を引き継ぎますので、実際の購入金額よりもかなり低くなります。建物や機械装置などに買い換えた場合は買換え後の減価償却費の金額が少なくなり、土地などへ買換えた場合には、次に売却したときの取得費が、少なく(つまり売却益が多く)なります。
- 買換えで取得した土地の面積が、売却した土地の面積よりも広くなる場合には、売却した土地の面積の5倍までが対象となり、5倍を超える部分は買換え資産から除かれます。
買換えのパターン
- 長期所有(譲渡の年の1月1日において10年超)の事業用資産からの買換え
所有期間が譲渡の年の1月1日において10年超の土地(借地権を含む)・建物を売却し、国内の土地等・建物・機械装置に買い換える場合、平成20年12月31日までの売却に限られます。 - 既成市街地等内からそれ以外の地域への買換え
東京23区や大阪、名古屋などの既成市街地等内にある事務所や、事業所として使用している建物またはその敷地を売却し、既成市街地でない地域にある事業用の土地や建物に買い換える場合。売却資産は所有期間が譲渡の年の1月1日において10年超のものとなります。 - ビルやマンションへの立体買換え
市街化区域内または既成市街地等内の土地や建物を売却して、この敷地上に建てられる次のビルやマンション(敷地を含む)に買換える場合。地上3階建て以上で、延べ床面積の5分の3以上が住宅用であるなどの要件を満たすもの。